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日々まったりマイマイ☆

月の灯り ―8―                 

久しぶりすぎる更新。
え? こんなのあった?とかいうのはナシでwww
知らない&覚えてないというかたは1話目からどうぞ(笑)

ま、サイトに起こすときにはちょっと修正すると思います。
とりあえず第8話です


目次はこちら 

8話は続きを読むからで☆

『月の灯り』

 ―8―





 『しーにぃちゃん、ゆうにーちゃん』
 幼い女の子があどけない笑顔で呼んでいる。
『お兄ちゃん、なっちゃんが呼んでるよ』
『あー、うん。優斗行ってこいよ。俺、母さんの手伝い残ってるからさ』
『うん、わかった』
 うっそうと茂る緑の中。兄は洗った野菜を持って母親のもとへと駆けて行ってしまった。
 少年は仕方なく一人で女の子のもとへと向かう。
『なっちゃん、どうしたの?』
 少年が駆け寄ると女の子は掌を見せてきた。
 そこにぽつんと小さい赤があった。
『わ、てんとう虫だ。可愛いね』
『かわいいでしょう?』
 えへへ、と見つけたことを誇らしそうに笑う女の子に、少年もまた微笑む。
『てんとう虫、ちっちゃいね』
 女の子はそう言いながらつんとてんとう虫を小さな指先でつついた。その反動でか、てんとう虫は小さな身体を震わすと羽を広げてあっという間に飛び立ってしまった。
『……あ。飛んでっちゃったね』
 小さな赤はあっというまに空の青さに消えて行く。
 少年は苦笑して飛んでいったてんとう虫から女の子へと視線を下した。
 そしてびくりと目を見開いた。
『な、なっちゃん?』
 ついさっきまで笑顔に彩られた顔は、いまにも泣きそうなものに変わっている。瞳に浮かび上がる涙。
『て、てんとう虫さんが……っ』
 飛んでっちゃったぁ、と女の子は泣きだしてしまった。
『なっちゃん、泣かないで。僕が探してあげるから』
 少年は慌てて宥めるように女の子の手を握り締めると、手を引いててんとう虫を探し始めた。
 山の中へ入り込んでどんどん進んでいく。
 でもてんとう虫は見つからず、そして高い木々に囲まれ、上を見れば暑い日差しが照っているのに妙に肌寒くて。
『ゆーにいちゃ……ん』
 泣いていた女の子は涙を止めていたけれど、心細そうにぎゅっと少年の手を握り締めた。
 必死だった少年はハッと我に返ってあたりを見渡す。
 自分よりも何倍も、いや何十倍も高いように思えてしまう木々にめまいがした。
 ―――どこだろう。
 不安がずくりと浮かび上がってくる。
『ゆーにいちゃん……、パパとママのところに帰りたいよ……ぉ』
 再び涙がにじんできているその声に、慌てて少年は屈みこんで女の子と視線を合わせる。
『ご、ごめん。なっちゃん、帰ろうね。てんとう虫はあとでまた探してあげるから』
 目を潤ませて『うん』と頷く女の子に、笑顔を作る。
 その手を強く安心させるように握り締めるが、本当は自分が安心を得ていた。
 戻らなきゃ。
 そう思い来た道を引き返す。
 だけど―――わからない。
『ゆーにいちゃん………?』
 いつしか足は止まってしまい、女の子の不思議そうな呟きに、泣きそうになった。
 小さな手に繋がれたさらに小さな手。
 守ってあげなきゃ、自分がしっかりしなきゃ、と思うのにとめどなく浮かび上がるのは不安ばかり。
『どうしたの……?』
 首を傾げ自分を見つめてくる女の子に目の奥が痛み、鼻がツンとする。
 霞んでいく視界の中で――――。
『奈緒!!! 優斗くん!!』
 自分たちのもとへと走ってくる人影が目に映った。
『パパぁ!!』
 女の子が嬉しそうに叫ぶ。
 少ししてたどり着いた男性は手を伸ばしていた女の子を軽々と抱きあげた。
『大丈夫かい?』
『うん! あのね、ゆーにいちゃんとね、てんとう虫探してたの』
『そうか。奈緒、ママがカレーが出来たと言っていたよ』
『わーい! カレー食べる!』
 泣いたことなど全部忘れてしまったような満面の笑顔でしゃべっている女の子。
『ああ、みんなで食べよう。―――優斗くん』
 それまで女の子へと向けられていた男性の温かな笑みが少年へと向けられた。そして大きな手が少年の頭に置かれる。
『……ごめんなさい、おじさんっ』
『どうして謝るんだい? いつも奈緒のそばにいてくれてありがとう』
 きっと帰って来ない女の子を心配で探しに来たのだろうに、男性は少年へと優しく言葉をかける。
 こぼれおちそうなほど目に涙をためた少年の頭をなでながら男性は目を細めた。
『これからも奈緒の傍にいてやってくれ。奈緒は優斗くんのことが大好きだからね』
『うん、奈緒、ゆーにいちゃん大好き!』
 穏やかな男性の声と、大好きな女の子の嬉々とした声に―――少年は涙を振りきるようにして笑顔を浮かべた。
『さぁ、戻ろう』
 差しのべられた手。
 男性の手を取り、少年はみんなのもとへと戻った。


 美味しそうなカレーの匂い。
 自然の中でみんなで食べる美味しさ。
 父がいて母がいて兄がいて。

 そして―――妹のような、だが妹ではない大事な可愛い女の子と、その家族がいて。

 陽だまりの中のキャンプはとても楽しかった。


 



 ***





「――――よ」
 一枚の写真を眺めながらぽつり優斗は呟いた。
 写真の中には若かりし日の両親と幼い兄、自分の姿がある。そして父の親友であり家族ぐるみで仲の良かった3人家族の姿も写っていた。
 ″パパ″と″ママ″に挟まれて幸せそうに笑っている小さな女の子の姿を指でなぞり、ふたたび小さく呟く。
「おじさん………。奈緒のこと見守ってやってて」
 遠く、手の届かない場所からでいいから。
 そばにいても嫌われることしかできない自分の代わりに―――、と胸の内で言いながら。
 しばらくの間じっと写真を見続け、優斗はそれをベッドサイドのチェストに仕舞ったのだった。
: 小説「月の灯り」 : comments(0) : - : posted by 紅葉ひろ :
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